松山地方裁判所 昭和57年(ワ)619号 判決 1987年1月19日
原告
石原正一
ほか一名
被告
都築正豊
主文
一 被告らは、各自、原告ら各自に対し、金八三八万六六九三円及びこのうちの金七六三万六六九三円に対する昭和五六年八月六日から支払済みまでの年五分の割合による金員を支払え。
二 原告ら各自の被告ら各自に対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は三分し、その二を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実
第一請求の趣旨
一 被告らは、各自、原告ら各自に対し、金二四四九万三七六五円及びこのうちの金二〇五九万三七六五円に対する昭和五六年八月六日から支払済みまでの年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 仮執行の宣言
第二請求の趣旨に対する答弁
一 原告ら各自の被告ら各自に対する請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
第三請求原因
一 事故の発生
訴外亡石原良子(昭和二三年七月一二日生まれ。以下、良子という。)は、次の交通事故(以下、本件事故という。)の当事者となつた。
発生日時 昭和五六年八月五日午後九時四五分ころ
発生場所 愛媛県伊予郡中山町出渕九番耕地三八五番地一先道路(国道五六号線)上
加害車 普通貨物自動車(香一一さ八一二七号)
右運転者 被告都築正豊
被害車 普通乗用自動車(愛媛五六た九六〇五号)
右運転者 良子
態様 中山町方面から伊予市方面へ進行中の加害車が、中央線を越えて対向車線に入つたため、対向車線を進行してきた被害車と正面衝突した。
結果 良子は、頭蓋内出血、腹腔内出血等の障害を受け、これにより事故発生の約二時間後死亡した。
二 被告らの責任原因
1 被告都築正豊(以下、被告都築という。)
被告都築は、その過失により本件事故を発生させたから、民法七〇九条により、本件事故から生じた損害を賠償する義務を負う。
右にいう過失とは、睡気を催し運転継続が困難となつたのであるから、直ちに運転を停止すべきであつたのに、停止しないで運転を継続し、仮睡状態に陥り、加害車を中央線を越えて道路右側部分に進入させた、との過失である。
2 被告株式会社テクナ・サムソン(以下、被告会社という。)
被告会社は、本件事故発生当時、加害車を自己のため運行の用に供していたから、自動車損害賠償保障法三条により損害賠償の義務を負う。
三 良子と原告らとの身分関係
原告らは良子の両親である。なお、良子の死亡当時、原告ら以外に同人の相続人は在続しなかつた。
四 損害
本件事故により良子及び原告らに生じた損害は、別紙(一)、(二)に示すとおりである。これをよりくわしく述べれば次のとおりとなる。
1 良子に生じた損害 金五三〇四万九三四七円
(一) 医療費 金二万四〇〇〇円
松山赤十字病院での治療に要した費用金一万四〇〇〇円と文書料金一万円の合計
(二) 逸失利益 金四七〇二万五三四七円
(1) 退職までの給料 金二九七四万六三五五円
良子は、本件事故発生当時、三三歳であり、愛媛県立宇和聾学校の寮母として勤務していて、「高等学校等教育職員給料表」の三等級第一一号給に当たる月額本給一三万六二〇〇円の給与を得ていた者であり、本件事故発生の前年である昭和五五年度分の給与所得は、年額二四五万三二三四円であつた。
また、本件事故発生当時、愛媛県においては、高等学校等教育職員は、満六〇歳まで勤務できる慣行であり(なお、昭和五九年には、六〇歳定年制が条例によつて定められた。)、処分を受けるなどのことがなければ、別紙(三)に示すとおり段階的に昇給するものとされ、三三歳で月額金一三万六二〇〇円の本給であつた者は、退職時には月額金二五万四〇〇〇円の本給を得るものとされていた。右事実を基に良子の退職までの給与を算出すると、次のとおり金二九七四万六三五五円となる。
イ 昇給を考慮しない分 金二八八五万六九〇〇円
a 年収 金二四五万三二三四円
b 生活費 年収の三割
c 就労可能年数 二七年
d 右に対応するホフマン係数(年別) 一六・八〇四
e 算式 245万3234×(1-0.3)×16.804=2885万6900
ロ 昇給分 金八八万九四五五円
右は、{(25万4000-13万6200)÷(60-33)}×203.91=88万9455算式を用いて求められた金額である。現実には昇給額は遍減しているが、右算式においては、月額金一三万六二〇〇円から同一額ずつ昇給していつて最終的に月額金二五万四〇〇〇円になるものとして、その場合の係数二〇三・九一が用いられている。これは、いわゆる控え目な算定方法の一つとして合理性を有するものというべきである(判例時報六〇三号三ページ以下参照)。
(2) 退職金 金七〇〇万八七四五円
右は、(25万4000×1.1+3288)×63.36×0.4255=762万1177
762万1177-61万2432=700万8745
の算式を用いて得られた数額である。右算式のうち、(25万4000×1.1+3288)×63.36は、良子が六〇歳まで勤務を続けて退職する場合の退職金額を、愛媛県職員退職手当条例に基づいて求めたもの、
0.4255は、二七年(六〇―三三)に対応するホフマン係数(年別)、
61万2432は、良子の死亡による退職を理由に現実に支給された退職金の額である。
(3) 退職年金 金一〇二七万〇二四七円
良子は、本件事故によつて死亡しなければ、八〇歳までは生きられたはずであり、良子死亡当時の規定によれば、六〇歳で退職した後も、年額金一九六万八七五九円の退職年金の支給を受けることができたはずである。良子の生活費を三割と見、ホフマン係数を用いて死亡時における一時金に換算すると、別紙(二)のとおり金一〇二七万〇二四七円となる。
(三) 慰藉料 金六〇〇万円
(四) (一)+(二)+(三) 金五三〇四万九三四七円
2 原告ら自身の損害 金一六九三万八一八三円
(一) 交通費 金七万九七八〇円
(1) タクシー代 金三万三七八〇円
原告らは、本件事故発生を知り、昭和五六年八月五日卯之町及び八幡浜市から松山市にタクシーで駆け着け、同月六日松山市から卯之町の自宅までタクシーで帰つた。
(2) 寝台車代 金四万六〇〇〇円
原告らは、良子の遺体を寝台車を用いて自宅へ輸送した。
(二) 葬祭関係費 金三〇五万八四〇三円
(1) 葬儀料 金八〇万八四〇三円
(2) 墓地代 金七〇万円
(3) 墓建設代 金一五五万円
(三) 慰藉料 金六〇〇万円(各自金三〇〇万円)
(四) 弁護士費用 金七八〇万円(各自金三九〇万円)
3 1+2 金六九九八万七五三〇円
4 損害填補 金二一〇〇万円
(一) 自賠責保険より 金二〇〇〇万円(原告ら各自に金一〇〇〇万円)
(二) 被告都築より 金一〇〇万円(原告ら各自に金五〇万円)
5 3-4 金四八九八万七五三〇円
五 結論
以上により、原告らは、各自被告ら各自に対し、金二四四九万三七六五円(前記損害金四八九八万七五三〇円の二分の一)とこのうちの金二〇五九万三七六五円(弁護士費用金三九〇万円を除いたもの)に対する昭和五六年八月六日(本件事故発生日以後であり、良子死亡以後でもある。)から支払済みまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第四請求原因に対する認否
一 請求原因一は認める。
二1 同二1は認める。
2 同二2は認める。
三 同三は認める。
四 同四冒頭部分は争う。
1(一) 同四1(一)は知らない。
(二)(1) 同四1(二)(1)のうち、<1>良子は、本件事故発生当時、三三歳であり、愛媛県立宇和聾学校の寮母として勤務していて、「高等学校等教育職員給料表」の三等級第一一号給に当たる月額本給金一三万六二〇〇円の給与を得ていたこと、<2>本件事故発生の前年である昭和五五年度分の給付所得は年額金二四五万三二三四円であつたこと、<3>本件事故発生当時、高等学校等教育職員は別紙(三)に示すとおり段階的に昇格するものとされ、三三歳で月額金一三万六二〇〇円の本給であつた者は、処分等もなく勤務を続ければ、六〇歳においては月額金二五万四〇〇〇円の本給を得ることになつていたこと、昭和五九年には六〇歳定年制が条例によつて定められたことは認める。その余は認めない。良子の逸失利益は、次のとおり金一六〇三万二二一〇円になると考えるべきである。
イ 年収 金二一八万九七四四円
右は、前記金二四五万三二三四円から税金(金一一万八八〇〇円)と社会保険料(金一四万四六九〇円)を控除したものである。
ロ 生活費控除 五割
女子の生活費控除が一般に五割を下回るものとされているのは、女子の給与が男子に比し低いことを考慮してなのであるから、公務員として男子と同様の収入を得ている良子については、男子単身者と同様の控除がなされるべきである。
ハ 用いるべき係数 一四・六四三〇
右は、二七年に対応するライプニツツ係数である。本件のように長期間の逸失利益の算定をするに当たつては、単利法の利殖を前提とするホフマン式よりも、複利法の利殖を前提とするライプニツツ式の方がより妥当である。昇給分を賠償の対象に加える場合には、ライプニツツ式の妥当性はより高まる(ホフマン式を採用する場合の重要な根拠は、事実上昇給を認めるのと同じ効果を有する点にある。)。
ニ 算式 218万9744×(1-0.5)×14.6430=1603万2210
(2) 同四1(二)(2)のうち、良子が六〇歳まで処分等なく勤務を続けて退職する場合の退職金額を愛媛県職員退職手当条例に基づいて求めると
(25万4000×1.1+3288)×63.36
の方式により算出される金額となること、良子の死亡による退職を理由に現実に支給された退職金の額が金六一万二四三二円であることは認める。その余は争う。
イ 退職金を根拠とする賠償請求は、被害者の勤務先に退職金支給の定めがあり、かつ、被害者が当該退職金の支給される時期まで勤務する蓋然性が大きい場合に限つて認められる。そして、右の蓋然性が大きい場合とは、性別、学歴、職種、就職年齢、転職の在否、死亡時における勤続年数等に照らし、右時期まで就労する意思が客観的に認定できる場合である(別紙(四)の判例参照)。
ロ ところが、良子の場合、良子が女性であること、職種が寮母であること、七度も転職してきていること、右職に就いたとき既に二九歳になつており新規採用でなく中途採用であつたこと、死亡時までの勤続年数もわずか四年であること等を考えると、長い期間にわたつて同一職場に就労し続ける意思が客観的に認定できる場合とは、とてもいえない。現に、宇和聾学校寮母の年齢別構成は、九割近くが二一歳から三五歳までであり三五歳を越えて勤務している人はほとんどいない、との事実が右主張を裏付けている。また、良子死亡当時、県職員に定年制は採用されておらず、事実上六〇歳の数年前から勧奨退職が行われていたことも忘れるべきではない。
ハ したがつて、本件においては、退職金を根拠とする逸失利益は認められないというべきである。
ニ 仮に、退職金を根拠とする逸失利益が認められるとしても、生活費として五割を控除すべきである。
(3) 同四1(二)(3)は争う。
イ 退職年金は、本来、受給者本人の生活保障のために支給されるものであるから、その性質上、損害賠償の対象にはなり得ない。
ロ 仮に、一般論としては退職年金が損害賠償の対象になるとしても、良子にそれが支給される蓋然性は、退職金の場合以上に低い。地方公務員等共済組合法(以下、組合法という。)七八条により退職年金を受給できるのは、組合員期間が二〇年以上である者に限られるのに、良子が長い期間にわたつて勤務を続けるとは考えにくいことは、退職金に関して既に述べたとおりであるからである。
ハ 仮に退職年金を根拠とする逸失利益が認められるとしても、生活費として五割を控除すべきである。
ニ なお、仮に、退職年金を根拠に逸失利益を算定するものとすると、算定手続において、退職年金支給の前提としての掛金を毎月の給与から差し引くこともまた必要になる。組合法一一四条及びそれに基づく公立学校共済組合定款二八条によれば、給料と掛金との割合は、昭和五九年一一月までは一〇〇〇対五二、昭和五九年一二月一日からは一〇〇〇対七二・五である。
ホ 組合法五二条によれば、退職給付は公課の対象とされている。したがつて、退職年金を根拠に逸失利益を算出するものとした場合には、税額相当分をも控除すべきである。
ヘ 最後に、良子死亡当時の規定によれば、良子が六〇歳まで勤務を続けたとしても、そのときに得られるはずの退職年金は、一年当たり、金一九六万八七五九円ではなく金一九〇万三八七七円である。
(三) 同四1(三)は争う。慰藉料は、原告ら自身の分も含め、全体で金七〇〇万円をもつて相当な額とすべきである。
(四) 同四1(四)は争う。
2(一)(1) 同四2(一)(1)は知らない。
(2) 同四2(一)(2)は知らない。
(二)(1) 同四2(二)(1)は争う。葬祭関係費は、葬儀料、墓地代、墓建設代等の全体で金六〇万円をもつて相当額とすべきである。
(2) 同四2(二)(2)は争う。
(3) 同四2(二)(3)は争う。
(三) 同四2(三)は争う。
(四) 同四2(四)は争う。
3 同四3は争う。
4(一) 同四4(一)は認める。
(二) 同四4(二)は認める。
5 同四5は争う。
五 同五は争う。
第五抗弁(過失相殺)
一 本件事故の発生には良子の落度も関与している。すなわち次のとおりである。
1 本件事故発生当時における本件事故発生場所及び付近の状況は、ほぼ別紙(五)交通事故現場見取図記載のとおりであり、現場は見通しのよいところである。
2 加害車が中央線を越えたのは、右図面<1>点と<2>点の中央、すなわち、<2>点より一一・五メートル後方(中山町寄り)、あたりである。
3 加害車が中央線を越えようとするときの被害車の位置は、右図面<ア>点より少なくとも二〇メートルは後方(伊予市寄り)である。右図面<2>点と<ア>点の距離は二七メートルであり、現場は見通しのよいところなのであるから、良子は、前を注視していれば、五〇メートル以上の距離で、加害車が中央線を越えたのを認めることができたはずである。
4 加害車の車線の道路幅は四メートル、被害車の幅は一・六メートルである。また、衝突直前、被害車は右側端を中央線の一メートル左とする状態で、加害車は右側端を中央線から一・二メートル越えさせる状態で、それぞれ進行していた。したがつて、良子は、衝突を避けるためには〇・二メートル左に転把すればよく、かつ、左には一・四メートルの余裕があるので、容易に衝突を避け得たはずである。
5 ところが、良子は、前方注視が不十分であつたため、左に転把するのが遅れ、それによつて本件事故発生を避けることが不可能になつた。
二 損害賠償額の算定に当たつては、良子の右落度も正当に考慮に入れるべきである。
第六抗弁に対する認否
全面的に争う。ただし、一1のみは認める。
第七証拠
本件記録中の各書証目録、証人等目録記載のとおりである。
理由
第一事故の発生と良子の死亡
請求原因一については当事者間に争いがない。
第二被告らの責任原因
請求原因二1、2についても当事者間に争いがない。
第三良子と原告らとの身分関係
請求原因三についても当事者間に争いがない。
第四損害
一 良子に生じた損害 金二九三九万三六〇六円
1 医療費 金二万四〇〇〇円
証人石原陽二の供述と甲第四号証の二、三(いずれも成立につき争いがない。)とにより認められる。
2 逸失利益 金二三三六万九六〇六円
良子の逸失利益の算定に関しては、原・被告それぞれがそれぞれの立場で異なつた主張をしている。しかし、逸失利益の算定方法については、その性質上、唯一無二の正しいものがあるというわけではなく、一定以上の合理性のあるものである限り、その中のどれを採用するかは、事件を審理する裁判所がもろもろの事情を考慮した上で裁量によつて決定すべきことがらというべきである。以下、右の立場に立つて逸失利益を算定する。
(一) 退職までの給料 金一八四〇万六一七九円
<1>良子は、本件事故発生当時、三三歳であり、愛媛県立宇和聾学校の寮母として勤務していたこと、<2>良子の昭和五五年度の給与は金二四五万三二三四円であつたこと、<3>良子は、本件事故発生当時、「高等学校等教育職員給料表」の三等給一一号に当たる月額本給金一三万六二〇〇円の給与を得ていたこと、<4>本件事故発生当時、愛媛県においては、高等学校教育職員は、処分等なく六〇歳まで勤務を続ければ、別紙(三)に示すとおり段階的に昇給するものとされ、三三歳で月額金一三万六二〇〇円の本給であつた者は、退職時には月額金二五万四〇〇〇円の本給を得るものとされていたこと、<5>愛媛県においては、昭和五九年に六〇歳定年制が採用されたことは当事者間に争いがない。
右の事実関係を基に、当裁判所は、本件をめぐる諸事情を考慮した結果、以下の方法を採用することにする。
(1) 昇給を考慮しない分 金一七九六万一三五三円
イ 年収 金二四五万三二三四円
ロ 生活費 五割
ハ 就労可能年数 二七年
ニ 採用する係数 一四・六四三〇
右は二七年に対応するライプニツツ係数である。
ホ 算式 245万3234×(1-0.5)×14.6430≒1796万1353
(2) 昇給分 金四四万四八二六円
被告らは、良子が七度も転職してきていること、死亡時までの勤続年数が四年であつたこと、宇和聾学校寮母で三五歳を越えて勤務している人はほとんどいないことなどを根拠に、良子が同一職場に長い時間にわたつて就労し続ける意思を有していたと評価することはできず、したがつて、就労し続けることを仮定して賠償額を算定することは許されないと主張する。しかし、この点につき被告らの主張する事実がすべて真実であるとしても、良子が六〇歳まで勤務を続けると仮定して賠償額を算定することの妨げにはならないというべきである。<1>死亡事故の場合の逸失利益の算定に当たつて将来の事象を仮定するのは、結局のところ、本来不確定な将来の事象を確定的なものと仮定してみて、それを前提に賠償額を算出することにより、賠償額の決定に一定範囲で合理性を持たせようとの目的のためのみなのでありそれ以上に出るものではないこと、及び、<2>愛媛県において定年制が採用された昭和五九年の前後を通じて、良子は、法定の事由がない限り六〇歳まではその意に反して免職されることのない権利を有するはずであつたのであり(地方公務員法二七条二項、二八条一項、二八条の二)、良子は本件事故により右権利を行使するか行使しないかの選択の自由を奪われたことに照らせば、被告ら主張の事実の下でも、逸失利益の算定に当たり、良子が六〇歳まで勤務を続けると仮定することには十分合理性があるといつてよいからである。
右のように考え、良子が六〇歳まで勤務を続けるものと仮定して損害額を算定することにする。
イ 年当たりの昇給額 金四三六三
右は、(25万4000-13万6200)÷(60-33)≒4363の算式により得られた数額である。右算式によると、毎年の昇給額は同一であるものと仮定されているが、実際には、昇給額は逓減するものとされている。したがつて、右仮定に立つて昇給分の一時金への換算を行うことは、実際より控え目な計算をすることになる。
ロ 生活費 五割
ハ 用いる係数 二〇三・九一
ニ 算式{(25万4000-13万6200)÷(60-33)}×(1-0.5)×203.91≒44万4826
(3) (1)+(2) 金一八四〇万六一七九円
(二) 退職金 金一七八万五八五六円
(1) 退職金額 金一七九一万一一一二円
良子が六〇歳まで勤務を続けて退職すると仮定した場合の退職金額は、愛媛県職員退職手当条例によれば、原告ら主張のとおり金一七九一万一一一二{(25万4000×1.1+3288)×63.36}円である。
右は当事者間に争いがない。
(2) 生活費 五割
(3) 採用する係数 〇・二六七八
右は、二七年(三三歳から六〇歳まで)に対応するライプニツツ係数である。
(4) 現実に支給された退職金 金六一万二四四二円
当事者間に争いがない。
(5) 算式 {(25万4000×1.1+3288)×63.36}×(1-0.5)×0.2678-61万2442}≒178万5856
(三) 退職年金 金三一七万七五七一円
退職年金を逸失利益算定の根拠にすべきか否かについては議論がある。退職年金制度には、被告主張のとおり受給者本人(及びそれに依拠して生活する者)の生活保障という公的側面があることは事実であり、この側面のみに着目するときは、これを不法行為法の領域外に置く扱いもあながち不当とはいえない。けれども、右制度には、給与の後払いの性格も相当に濃厚に含まれていることは否定できず(このことは、退職年金支給の前提としての掛金が毎月の給与から控除されること、受給者の生活状態に関係なく支給されるものであること等に示されている。)、不法行為による損害賠償を問題にする場合には、むしろ、後者の側面に着目して、これを逸失利益算定の根拠にする方がより妥当というべきである。
(1) 退職年金額 一年当たり金一九〇万三八七七円
良子は、六〇歳まで勤務を続ければ、退職年金として少なくとも年額金一九〇万三八七七円の支給を受けることができるはずであつた。
右については当事者間に争いがない。退職年金額が右以上であるとする原告主張は、本件全証拠によつても認めることができない。すなわち、成立に争いのない甲第三四号証の一は右主張を認めるに十分な証明力を持たず、他にもこれを認めさせるだけの証拠はない。
(2) 受給期間 二〇年
昭和五七年簡易生命表によれば、三三歳女子の平均余命は四七・七七年(三四歳女子のそれは四六・八〇年)である。したがつて、六〇歳から八〇歳までの二〇年間を退職年金受給期間とすることができる。
(3) 生活費 五割
(4) 採用する係数 三・三三八〇
右は、四七年(三三歳から八〇歳まで)に対応するライプニツツ係数一七・九八一〇から二七年(三三歳から六〇歳まで)に対応するライプニツツ係数一四・六四三〇を引いた数である。
(5) 算式 190万3877×(1-0.5)×3.3380≒317万7571
(四) (一)+(二)+(三) 金二三三六万九六〇六円
3 慰藉料 金六〇〇万円
4 1+2+3 金二九三九万三六〇六円
二 原告ら自身に生じた損害 金六八七万九七八〇円
1 交通費 金七万九七八〇円
(一) タクシー代 金三万三七八〇円
証人石原陽二の供述と甲第四号証の一、四(いずれも証人石原陽二の供述により成立が認められる。)とにより請求原因四2(一)(1)の事実が認められる。
(二) 寝台車代 金四万六〇〇〇円
証人石原陽二の供述と甲第四号証の五(証人石原陽二の供述により成立が認められる。)とにより請求原因四2(一)(2)の事実が認められる。
2 葬儀関係費 金八〇万円
弁論の全趣旨により、原告らは葬儀関係費として金八〇万円を下らない額を負担したことが認められる。なお、右を越える額は、仮に要したとしても、それと本件事故との間に相当因果関係を認めることができない。
3 慰藉料 金六〇〇万円
原告ら各自につき金三〇〇万円ずつ
4 1+2+3 金六八七万九七八〇円
三 一+二 金三六二七万三三八六円
四 過失相殺 なし
仮に、抗弁で被告らの主張する事実がすべて真実であり、かつ、右事実における良子の行動を同人の落度と評価することが許されるとしても、被告都築の過失の大きさ等を考慮すると、本件において過失相殺を行う必要はないというべきである。過失相殺はしない。
五 損害填補 金二一〇〇万円
原告ら各自に金一〇五〇万円ずつ
当事者間に争いがない。
六 三―四 金一五二七万三三八六円
原告ら各自に金七六三万六六九三円ずつ
七 弁護士費用 金一五〇万円
原告ら各自につき金七五万円ずつ
八 六+七 金一六七七万三三八六円
原告ら各自に金八三八万六六九三円ずつ
第五結論
以上によれば、原告ら各自の本訴請求は、被告ら各自に対し、金八三八万六六九三円とこのうちの金七六三万六六九三円(弁護士費用を除いたもの)に対する昭和五六年八月六日(本件事故発生日以後であり、良子死亡日以後でもある。)から支払済みまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であり、その余は失当である。そこで、原告ら各自の請求を右正当な限度で認容し、その余は棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山下和明)
別紙 <省略>
別表Ⅰ
<省略>
別表Ⅱ
逸失利益(給与)
(33歳~60歳、ホフマン係数16.804、生活費控除30%)
2,453,234×(1-0.3)×16.804=28,856,900(円)
28,856,900+889,455=29,746,355(円)
逸失利益(退職金)
(254,000×1.1+3,788)×63.36×0.4255=7,621,177(円)
7,621,177-612,432=7,008,745(円)
退職年金
死亡年齢33歳、年金支給60歳~80歳
給料月額(60歳)282,688円、退職年金1,968,759円
生活費控除30% ホフマン方式により年5%の中間利息控除
<省略>
高等学校等教育職員給料表
<省略>
<省略>